日産グループ向け1次中小サプライヤー4割が減益 ~ 日産の構造改革の余波、今後の懸念に ~
ホンダとの経営統合の打ち切りが報じられ、今後の構造改革の内容にも注目が集まる日産自動車。日産と主要グループ企業(以下、日産グループ) と取引する国内企業は1万3,283社。そのうち部品メーカーを中心とした中小企業の直接仕入先(1次中小サプライヤー)の最新期決算は4割が減益(最終利益ベース)で、15%が赤字と苦戦していることが東京商工リサーチ(TSR)の調査でわかった。
1次中小サプライヤー最新期の売上高を合算すると前々期と比べ16.9%伸びたが、利益は8.3%減と厳しい状況にある。一方、大企業のサプライヤーの売上高は前々期から21.4%増、利益は同69.0%増と対照的だ。
ホンダとの統合協議の打ち切りが報じられ、日産グループのサプライチェーンに動揺が広がっている。ピラミッド型の取引網が構築された日産グループの中小1次サプライヤーをTSRデータベース(2024年12月時点)から分析した。
取引先合計は1万3,283社
日産自動車と、同社の2024年3月期有価証券報告書に記載のある国内関係会社17社の仕入先・販売先を抽出すると、1次2次含めて1万3,283社(重複排除)が該当する。
このうち、1次仕入先で銀行や金融・保険業を除き、資本金1億円未満の中小企業を対象に3期連続して業績(売上高・最終利益)を比較できる1,060社を分析した。
最新期(2023年度)の売上高合計は3兆6,034億8,400万円で、前期から7.3%増、2期前の前々期から16.9%増と増収が続いている。一方で、利益は最新期が1,133億7,400万円で、前期から25.0%増ながら、前々期と比べると8.3%減少している。
銀行など金融・保険業を除く資本金1億円以上の大企業477社でみると、最新期の売上高合計は58兆7,061億4,800万円で、前々期から21.4%増と大幅に増えた。利益も4兆3,573億6,300万円と前々期から69.0%増と伸び、中小企業と比べて大企業の業績伸長が際立った。
同じ条件で、ホンダグループ1次中小サプライヤー1,529社を分析すると、利益は前々期から11.2%増の1,321億4,300万円と回復している。ホンダに比べ、日産グループの1次中小サプライヤーの利益は厳しい状況が浮かび上がる。
売上高別、10億円未満が半数近く
日産グループの1次中小サプライヤーを売上高別でみると、最多は10億円以上50億円未満の368社(構成比34.7%)だった。以下、1億円以上5億円未満の248社(同23.4%)、5億円以上10億円未満の145社(同13.6%)と続く。
100億円以上が69社(同6.5%)あったが、1億円未満も131社(同12.3%)ある。売上高10億円未満は49.4%で半数近くを占めた。
利益状況、4割が減益
最終利益別では、最新期が黒字だったのは898社(構成比84.7%)、赤字は162社(同15.2%)だった。前々期の赤字企業率20.4%から5.2ポイント改善したが、15%が赤字と厳しい経営が続いている。
なお、資本金1億円以上の大企業では、最新期の赤字企業率は10.2%で、中小企業より5ポイント低かった。
最新期を対前年増減益でみると、増益企業率は51.7%に対して減益企業率は40.8%だった。減収減益だった企業は19.8%に達する。業績が悪化しているサプライヤーも多い。
世界第3位の巨大グループを目指した交渉は暗礁に乗り上げた。ただ、電動化や自動運転など自動車業界を取り巻く環境は激変している。完成車メーカーだけでなく、サプライヤーの再編統合に向けた機運はこれまでになく高まっている。
国内のファンド関係者は、「地場サプライヤーはメインバンクの地銀の営業テリトリーを超えた再編がしにくい構造が続いていた。しかし、完成車メーカーが激流に揉まれる中、ファンドを活用したダイナミックな再編も選択肢の1つだ」と意気込む。
日産グループのサプライヤーのなかには、すでに経営が悪化している企業もある。ターンアラウンド(事業再生)が必要な日産にサプライチェーンを俯瞰する力が残されているのか、心配の声は絶えない。サプライチェーン再編の足音がこれまでになく近づいている。