高まりつつある地政学リスクとその備え
「コンプライアンスチェックの基礎知識」でご紹介したコンプライアンスチェックの3つの観点のうち、本ページでは地政学リスクについてご説明いたします。
地政学とは「地理学」と「政治学」を合わせた言葉で、特定の国・地域間で生じる政治・軍事・経済・社会などの問題が自社に影響を及ぼすリスクを地政学リスクと言います。近年では、ロシア・ウクライナ問題、イスラエル・パレスチナ問題をはじめとする中東情勢の不安定、米中関係のデカップリング(経済分断)、台湾情勢など、世界の様々な地域でリスクとなりうる事象が発生しています。グローバル化により多国間をまたいだ取引やサプライチェーン形成が進んでいる現代においては、こうした地政学リスクが予期せぬ形で自社のビジネスに影響を及ぼす可能性が高まりつつあると言えます。
まずは、地政学リスクの影響を受けている主な産業をご紹介いたします。
地政学リスクの影響を受けている産業
半導体
米国が、中国によるAIの軍事利用を抑え込むことなどを目的に半導体や半導体製造装置の輸出規制を順次強化しており、同盟国である日本などにも販売制限の拡大などを迫っていると伝えられています。
エネルギー資源
欧米が、世界最大のエネルギー資源供給国であるロシアへ化石燃料輸入に関する規制をおこなっています。また、新たにLNG(液化天然ガス)についてもEU域内で第三国向けに積み替えることを禁止するなど、その範囲は拡大しています。
こうした影響は直ちに自社には及ぶものではなくても、取引先やサプライチェーンが影響を受けることでいずれ自社にも及んでくる可能性があること、そしてその影響は調達・製造・販売など広範に及ぶ可能性があることも考慮しなくてはいけません。影響の例としては、輸送ルート閉鎖による製品や原材料の供給断、現地社員の安全確保、取引先やその実質的支配者の制裁リスト掲載による取引停止、輸出入規制等による取引停止・縮小、国家間の争いによる不買運動やネガティブキャンペーンなどが考えられます。
地政学リスクへの備え
世界各地で様々なリスクが高まる今、企業の大小を問わず地政学リスクへの対応は待ったなしという状況になりつつあります。TSRにも地政学リスク対応に関するご相談が多く寄せられていますが、実際に何をすればいいのかという話も多く聞かれます。そこで、地政学リスクに対し取るべき備えについてご紹介いたします。
a. リスクとなりえる企業や人物の洗い出し
まずは取引先やサプライチェーンなど、取引相手の資本構造はどうなっているか、利害関係者は誰か、それらはどこの国にいるのか、など自社のビジネスに関連している企業や人物の素性を明確にします。
b. リスクの予測と対応計画の検討
次に、それらの企業や人物が所在する国、また自社の工場・事業所が海外にある場合はその国において、今後起こりえる規制や軍事的・政治的脅威による影響を予測し、その結果を踏まえた対応までをシナリオ化します。例えば、生産を別の地域へシフトする、代替のサプライチェーンを構築する、BCPを策定する、事業を撤退する、などの対応を検討します。
想定されるリスクと影響に対する対応計画の例
c. リスクの監視
地政学リスクは常に変化し続けます。そのため、予測したリスクの発生確率が高まっていないか、他のリスクは発生していないかを常時監視し情報を迅速に察知しなければなりません。資本構造変化や制裁リスト等のモニタリング、当該国における政治・軍事・社会の最新動向をチェックし、有事の際に素早く行動できるようにしておくことが大切です。
TSRの地政学リスク関連ソリューション
TSRでは、地政学リスクの把握や管理にお役立ていただけるサービスを多数提供しております。お客さまごとに異なる課題やご要望に合わせ最適なソリューションをご提案いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
①資本構造、実質的支配者、利害関係者、役員などの情報取得
系列の総合的な資本構成、グループの階層、親会社からの影響、国別の資本構成数、企業や個人の資本関係など、当該企業の資本関係や利害関係者を包括的に把握することができるオンラインサービスです。
取引先などが記載されたリストに対し、当該企業の役員、上場情報、監督当局情報、D&B独自のアルゴリズムで算出された『受益率』を基にした実質的支配者、50%以下の資本関係を含めた企業の系列情報、代理店、フランチャイズなど直接の資本関係のない企業関係など、実態把握に役立つ情報を付与するデータベースサービスです。
グローバルサプライヤーオンライン管理サービス(D&B Risk Analytics - サプライヤー・インテリジェンス)
実質的支配者や50%超の資本関係にある系列企業の図式などサプライヤーの実態を特定する情報の取得や、それらの情報を元にしたスクリーニングなど、効率的なサプライヤーリスク管理を実現するオンラインサービスです。
②国や地域のリスク関連情報取得
D&Bアナリストが世界130カ国超のリスク要因を分析・評価した国別のレポートです。 「与信環境」「サプライチェーン」「市場環境」「政治環境」という4つの観点におけるリスクと対策、またそれらを数値化した指標など、当該国のリスク把握に欠かせない情報が満載です。
カントリーリスクレポートの内容に加え、当該国と近隣国を様々な点から評価した多次元分析(MDA)スコア、世界/地域の成長予測、短期的/長期的な経済的可能性、各種詳細な分析など、より詳しく当該国のリスクを紹介している国別のレポートです。
カントリーリスクレポートを制限なくダウンロードできる他、格付(カントリーリスクレーティング)とその履歴、カントリーリスクを世界地図で色分けして表示するヒートマップ、D&B分析チームによる今後5年分の経済指標予測など、世界各国のリスク情報をオールインワンで提供するオンラインサービスです。
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