次世代電池のAPB、経営騒動の舞台裏 ~ APB・大島麿礼社長 単独インタビュー ~
次世代リチウムイオン電池「全樹脂電池」の開発や製造を手がける技術系ベンチャーのAPB(株)(TSRコード:034707670)が注目を集めている。
APBは2018年、日産自動車(株)(TSRコード:350103569)で電池の研究開発に携わった堀江英明氏が創業した。全樹脂電池は、従来のリチウムイオン電池と異なる構造で安全性が高く、エネルギー密度も高い次世代の電池として期待されている。だが、量産化に苦戦し、堀江氏と一部株主の間で経営方針を巡る対立も表面化。2024年6月に堀江氏は解職され、当時の副社長だった大島麿礼氏が代表取締役社長に就任した。
APBを巡っては、メインバンクの北國銀行グループの投資会社(株)QRインベストメント(TSRコード:380609657、以下QRI)から2024年11月、会社更生法を申し立てられ、その後取り下げられた。2025年2月に、全従業員を対象に希望退職者を募集し、4月末までの休業を告知して事実上、営業は停止状態にある。
大島麿礼社長が東京商工リサーチ(TSR)の単独取材に応じた(取材日は4月10日)。
―APBの経営権を巡り、堀江氏と対立していたようにみえる。経緯は
APBは堀江氏が設立し、2022年までに累計で約88億円の資金を調達しているが、2022年に一度、倒産の危機に瀕した。当時、会社にキャッシュがほとんど残っておらず、全樹脂電池の量産化も進まず、多くの株主が堀江氏の代表交代に賛同した。
会社を立ち上げた際、三洋化成工業(株)(TSRコード:641046405)、(株)慶應イノベーション・イニシアチブ(TSRコード:016749820)、堀江氏との間で株主間契約を結び、堀江氏が代表を辞する際は、堀江氏の承認が必要となる契約になっていた。
その後、三洋化成工業と経営体制などを巡り意見が対立し、堀江氏はAPBの代表取締役の地位保全を求める仮処分を申請した。
堀江氏は勝訴し、2022年6月の株主総会で堀江氏は代表を続投した。
こうしたなか、堀江氏からFA(ファイナンシャルアドバイザー)経由で私が籍を置く(株)TRIPLE-1(TSRコード:022925139)にAPBの支援依頼が来て、事業再生を目指してAPBの経営に参画することになった。
TRIPLE-1は、半導体戦略や電力ソリューション事業などを手がけており、全樹脂電池の安全なバッテリー技術と堀江氏の熱意に惹かれ支援を決めた。2022年11月にTRIPLE-1は三洋化成工業の保有していたAPBの34%の株式を取得し、筆頭株主となった。その際に、第三者からの資金調達が完了したら、APBの代表を交代する内容を含んだ契約をTRIPLE-1、APB、堀江氏の間で締結した。
その後、奔走して2023年12月までに複数の投資家から20億円の資金調達がまとまった。外部の資金調達が完了したので、代表を予定通り交代しようと堀江氏に持ち掛けたが断られた。一方、堀江氏が株主らに約束していた量産化は予定通り進捗せず、代表者交代の議論が再度持ち上がった。
もともと、APBの取締役は任期1年で、毎年株主総会で再任しなくてはいけない定款だ。だが、2024年6月の取締役会で、堀江氏が取締役の任期満了に伴う新たな取締役の選任を議案として付議せず、独断で閉会しようとしたため、善管注意義務に基づきやむを得ず堀江氏を解職した。堀江氏は取締役会の決議無効を求める仮処分申立を行ったが、最高裁は2025年1月10日付で棄却した。
―扱い品の特性上、国家安全保障上の懸念について指摘もある
2023年3月、APBの顧客候補として中国企業と面談した。堀江氏と事前に協議の上、重要な機密情報を含まない内容で堀江氏が技術面の説明を行ったもので、安全保障上の懸念はない。(先方の)要求水準に届かず、検討は終了した。また、根幹の特許はすべて事業パートナーとの共同特許だ。共同特許の場合、片方が売りたくても拒否する権利がもう片方にあり、技術流出の懸念はない。
―北國銀行グループのQRIに会社更生手続きを申立てられた。経緯は
QRIが2024年11月1月、APBに対して会社更生法を申し立てた。だが、会社更生手続き中の運転資金となるDIPファイナンスの調達計画が頓挫したことを理由に、裁判所による開始決定予定当日の11月21日、申立てが取り下げられた。
―新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの助成金を取り消されている
助成金の一部を、NEDO関係のサプライヤーに支払う予定だった金額を払えなかった。これは当時、APBをすでに退職していた堀江氏が、APBの意思に反して北國銀行の支払承認フローに入っていたため、北國銀行で決済承認が拒否されたためだ。その後、QRIから会社更生法を申し立てられ、NEDOからの是正期日が開始決定予定日の前に設定されたため、是正することが出来ず助成金の交付が取り消された。
―資金調達の状況、今後の展望は
2月末時点で必要資金を調達できず、従業員への給与遅配や税金滞納などが発生した。将来の道筋を示さずに事業継続することは従業員に不誠実であり、苦渋の決断として全従業員向けに希望退職の募集を発表した。資金調達の状況次第では、破産法に基づく法的手続きも含めて総合的に検討している。
APBは4月末までの休業を発表し、事業再開は不透明だ。補助金の返還なども求められており、期待の大きい新技術の行方が注目される。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年4月16日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)